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2009年06月17日

最後に……

ささやかな贈り物を。
『剣風帖』の5年後を舞台にした小説『東京魔人學園双龍変』シリーズ。
新たな《転校生》風祭兄弟を主人公に、真神學園を覆う陰(那智姉弟)との闘いを
描いています。
その『東京魔人學園双龍変』の幻のドラマ用台本を初公開。
10周年最後の日に完全書き下ろしの魔人ストーリーをお楽しみください。


『東京魔人學園双龍変―――夕曳(ゆうえい)』

●深い森の中―――日中



遠くを滝が流れる山中。
白い胴着を着た2人の中学生ぐらいの少年とやはり白い胴着を着た
老人の姿がある。老人の顔は見えない。

【龍紀(たつき)】痛ててて…。もうダメだ…。

老人に投げ飛ばされて、地面に倒れこむ龍紀。
横たわったまま動かない。

【龍弥(たつみ)】兄さん!

龍紀に駆け寄って起こそうとする龍弥。

【風祭(かざまつり)祖父】手を貸すでない、龍弥ッ!
【龍弥】で…でも…おじいちゃん。
【風祭祖父】手を貸す必要はない…。

険しい表情で龍紀を見下ろす祖父。
目を閉じたまま、横たわっている龍紀。

【風祭祖父】立て、龍紀。
      まだ稽古は終わっておらぬ。
【龍紀】もう無理だって……。
【風祭祖父】龍紀よ。
      真(まこと)の強さとは何だかわかるか?
【龍紀】……。
【風祭祖父】わからぬか?
      わからぬから、弱いのだ……お前は。
【龍紀】別に強くしてくれなんて頼んじゃいねェよ。

小声で呟く龍紀。

【風祭祖父】……来い、龍弥。稽古を続けるぞ。

龍紀に背を向けて、稽古を続けようとする祖父。

【龍弥】でも、兄さんが…。
【風祭祖父】龍弥ッ!
【龍弥】はっ、はいッ!

小走りに祖父の下へ向かう龍弥。

【龍紀】ふん…クソジジイ。

祖父が離れた場所に行った気配を感じると目を開く龍紀。
祖父と龍弥が稽古を続けている。

【龍弥】……?

背後の物音に振り返る龍弥。
その視線の先に横たわっていた龍紀の姿はない。

【龍弥】兄さん?
【風祭祖父】……愚か者が。

情けなさそうに呟く祖父。


♪OP『風詠みて水流れし都』



●真神學園―――三時限目



授業を受けている生徒たち。
机に頭を置き、熟睡している龍紀。

【龍紀】むにゃむにゃ……やってられっか……。

寝言で、祖父に悪態をつく龍紀。
隣の席の桧神 神楽(ひのかみ かぐら)や近くの席の同級生たちが、
呆れた顔でその姿を見ている。
「注意してあげなよ」みたいなジェスチャーをする女友達に首を横に振る神楽。

【教師】風祭。

神経質そうな男の教師が、龍紀に気付き、声をかける。

【教師】おい、風祭。
【龍紀】クソジジイ……。

龍紀に近づいてくる教師。

【教師】風祭。

龍紀の肩に手をかけようとする教師。

【龍紀】この、クソジジイッ!!

教師の手首を掴んで投げ飛ばす龍紀。
豪快に倒れる教師。

【龍紀】あれ?
【龍弥】兄さん…。
【教師】かァァァざァァァまァァァつゥゥゥりィィィ。
    ろッ…廊下に立ってろォォォッ!!

激怒しながら、龍紀を怒鳴りつける教師。

●廊下



バケツを持って廊下に立っている龍紀。
教師が睨みをきかせながらドアを閉める。

【龍紀】ふァ~あ。

欠伸(あくび)をする龍紀。

【龍紀】ん?

窓の外にある校舎裏の通路を行く数人の男子生徒に気付く龍紀。
ひとりの生徒を他の生徒が肩を無理やり組んで連れていこうとしている。
ひとりの生徒以外、男子生徒たちは不穏な雰囲気を持ち、
その表情には険(けん)がある。

【龍紀】何だありゃ?

バケツを持ったまま、窓辺に寄る龍紀。

【かごめ】あれは……2-Aの美作(みまさか)だねえ。
【龍紀】どわッ!!

突然、耳元で声をかけられて驚く龍紀。
バケツを落として水をこぼしてしまう。

【龍紀】狐森(こもり)……いつからそこに?

いつの間にか、狐森かごめが立っている。

【かごめ】中央の華奢な男子が、美作。
     で、あの大きいのが野田。坊主頭が佐川、金髪が富山。
     全員空手部だよ。あの連中に限らず、2年生になって、
     空手部は随分と変わったって話さ。悪い方にね。

窓の外を見ながら、呟くかごめ。

【龍紀】変わった…?
【かごめ】腕力に物を言わせて、恐喝、カツアゲ、暴行、
      授業のエスケープ。
【龍紀】授業のエスケープは、腕力と関係ないだろ…。
【かごめ】それに、稽古と称して、あるひとりの部員をリンチしている
      とか……ね

クールな目で眼下の生徒たちを見る龍紀。

【かごめ】どうするんだい?
【龍紀】どうするって……何で俺にそんな事訊くんだよ?
【かごめ】別に。
【龍紀】どうするもこうするも、俺には関係ない話だぜ。
【かごめ】そうかい。
【龍紀】そうさ。
    何で俺が、あいつらの問題に首を突っ込まなけりゃならないんだよ。
    だいたい、あんな連中に一方的にやられている方にだって―――、

突然、教室のドアが開く。

【教師】こらァァァッ、風祭ッ!! 何喋ってんだッ。
    バケツ持って静かに立ってろっていっただろッ!!

振り返る龍紀。
廊下の水で滑って転び、ドアに頭をぶつける教師。

【龍紀】おい、狐森―――、

しかし、隣にはすでにかごめの姿はない。
窓の外を見つめる龍紀。

●空手部道場



殺風景な道場。
空手着を着た部員たちが集まっている。
部員たちの表情は、どこか凶暴で、常人のそれとは違う。

【空手部部員】連れてきました。

美作を道場に押し入れる部員。

【空手部部員】何、部活を休んでんだよ、美作ちゃん?
【美作】その……。
【空手部部員】強くなりたくねェのか―――よッ!!

いきなり美作の胸に蹴りを放つ部員。

【美作】ゲホッ、ゴホッ……。
【空手部部員】よーし、今から稽古をつけてやる。
       胴着に着替えな。
【美作】え……?
【空手部部員】いいですよね、部長?
【獅之田(ししだ)】あァ……。

奥の薄暗がりに座っていた男がゆっくりと顔を上げる。
目の下にクマができ、その瞳は凶暴な光を放っている男が呟く。

【獅之田】たっぷりと稽古をつけてやれ……。

ピシャリと閉じられる道場のドア。

●放課後―――夕刻



帰り支度をして、校舎を出て行く生徒たち。
校舎から出てくる龍紀と龍弥。

【神楽】あら? 帰宅部はもう下校?

声のする方を見ると、神楽が立っている。

【龍紀】出た、お節介女……。
【龍弥】桧神さんは、部活?
【神楽】ううん。今日は体育館でバスケ部の試合があるから休み。
【龍紀】弱小部は、練習場もなくて可哀相な事で。
【神楽】うちの剣道部をバカにしないでよね。
    これでも、全国大会に出た事もあるんだから。
    何年か前だけど、有名な……というか名物部長もいたし。
    何て名前だったっけなァ? 高麗(こうらい)じゃなく、
    ほうれん草じゃなく……。
【龍紀】部長がこれだから、衰退もするわな。
【神楽】なによォ。

竹刀で殴ろうとする神楽とそれを避ける龍紀。
その近くを美作が通り過ぎていく。

【龍紀】ん? あいつは……。
【神楽】あッ、美作くん。

神楽の声に振り返る美作。

【美作】……。
【龍紀】知り合いなのかよ?
【神楽】うん。1年生の時、同じクラスだったから。

美作の顔を見て驚く神楽。

【神楽】どしたの、口元? 血が出てるよ。
    ちょっと待ってて。

ポケットからハンカチを出して、近くにあった校庭の水道で濡らす神楽。
美作の傷口に当てる。

【神楽】ここも腫れてる……。
    もしかして、またあいつら?
【美作】……。

頷く美作。

【神楽】許せない。
    こんなになるまで……。
    あたし、ちょっと言ってくる。

行こうとする神楽の腕を掴む龍紀。

【龍紀】待てよ、どこ行くんだよ?
【神楽】先生のとこよ。
    だって、これはれっきとしたイジメじゃない。

うつむいている美作。

【龍弥】そうだね。
    これは、ちょっと見過ごせないよね。
【美作】まッ、待ってッ!!

神楽を呼び止める美作。

【神楽】……?
【美作】放っておいてくれないか? ぼ……僕は大丈夫だから。
【神楽】でも、そんなになるまでやられてるじゃない。
【美作】いいんだ、僕が我慢すればいいだけだから。
【龍弥】そんな、我慢なんて……ちゃんと先生に―――、
【美作】放っておいてくれっていってるだろッ!!
【神楽】――――――ッ!!

大声を出す美作。

【美作】先生になんて話して、更にあいつらがエスカレートしたら
     どうするんだよ……。
【神楽】でも……。
【美作】今のままでいいんだ。
    このままあと2年間我慢すれば、僕はこの學園を卒業できる。
    それまでの辛抱だから。それまでの……。
    だから、僕に構わないでくれ。
【龍弥】……。
【神楽】……。

行こうとする美作の前に龍紀が立ちふさがる。

【美作】何だよ?
【龍紀】……。
【美作】どいてくれよ。
【龍紀】俺は、この學園に転校してきたばっかだし、正直お前がどういう學園生活を
    送ろうと知ったこっちゃないけどよ。
    お前は、あいつらより自分が弱いと思ってんだ?
【美作】当たり前だろ?
【龍紀】ふ~ん、そうなんだ。
    じゃ、いじめられても仕方ないんじゃねェの?
【美作】え……。
【神楽】龍紀、何を……。
【龍紀】弱者が強者に敗れる。
    それって、当たり前の事だろ。
【神楽】ちょっと、何いってんのよ?
    それって、強い人が正しいとでもいうの?
【龍紀】そうさ。
    弱いんだから、勝てなくて当然だろ。
【神楽】龍紀、あんたね……。

龍紀を睨みつける神楽。

【美作】僕だって、強くなりたい……。
    強くなりたいよッ!!

うつむいて歯を食いしばる美作。

【美作】でも、身体だって大きくない。力だって強くない。
    強くなりたいと願ったって、強くなんかなれやしない。
    映画やゲームの世界とは違うんだ……これが現実だよッ!!
【龍弥】美作くん……。
【龍紀】じゃ、一生そうやって弱音を吐いて生きていくんだな。
    お前のようなヤツにはお似合いだぜ。

吐き捨てるようにいう龍紀。

【龍紀】正直、俺はお前のようなヤツを見てると苛ついてくんだよ。
    イジメられるのが嫌なら立ち向かえばいいだろ?
    倒されたって、何度でも立ち上がればいい。
    自分から戦う事を諦めたのは、お前だ。
    はっきりいって自業自得ってヤツ―――、

突然、龍紀の頬が鳴る。

【神楽】……。
【龍弥】桧神さん……。

龍紀の頬を叩いた手を広げたまま、龍紀を睨みつける神楽。

【神楽】どうして、傷ついている人にそんな酷い事いえるの?

唇を震わす神楽。

【神楽】あんたに、彼の心の傷や苦しみがわかるっていうの?
    あんたに、美作くんの何がわかるっていうのよッ!!
【龍紀】何もわからないし、わかりたくもないね。
    こんな弱虫の事なんて。
【神楽】あんたって……最低ッ!!
【龍紀】てめェ……。
【龍弥】ちょッ、ちょっと待って、兄さん。
    桧神さんも―――、
【空手部員】あれェ? 美作ちゃんじゃん。

声の方を見ると、野田たち空手部員たちが立っている。

【空手部員】何してんだよ、こんなとこで。
      放課後になったら道場に来いって、午前中にいったよな?
【美作】は……はい……。
【空手部員】じゃ、行こうぜ。
      たっぷり休んでいた分まで稽古つけてやっからよ?

美作と肩を組み、無理矢理連れていこうとする空手部員たち。

【龍紀】ちょっと待てよ。

部員たちを呼び止める龍紀。

【空手部員】何だ、てめェ?
【龍紀】謎の転校生だけど。
【空手部員】何だと? ふざけた事いいやがって……。
【龍紀】俺も空手部の部活っての見てみたいなァ。
【空手部員】あん?
【龍紀】俺にも稽古つけてくれっていってんだよ。
【空手部員】ふん、何で部員でもないお前の稽古を俺たちがつけてやらなきゃ
       ならないんだ?
       おい、行くぞ。
【龍紀】自分たちより弱いヤツとは稽古できても、強いヤツとは
     稽古できないって事か。

行こうとする部員たちを嘲笑する龍紀。

【空手部員】何だと、てめェ……。
【龍紀】井の中の蛙何とやらってな。
【空手部員】喧嘩売ってんのか、てめェ……。
【龍紀】稽古つけてくれよ、いいだろ?

にやにやする龍紀。

【空手部員】……ついて来い。

部員の後をついていく龍紀。
龍弥と神楽も後を追う。

●空手道場



【男子生徒】おい、聞いたか? 《転校生》が、空手部に喧嘩売ったらしいぜ。
【男子生徒】まぢかよッ!!
      そりゃ面白ェ。
【女子生徒】何か空手部の道場に連れていかれたって。
【女子生徒】怖ァァァい。もしかして、病院送りとか?
【男子生徒】見に行こうぜッ。
【男子生徒】おい、A組の連中にも教えてやれよ。

口々に噂しながら、空手部の道場に向かっていく生徒たち。

【空手部員】ちッ、誰だ話触れ回ったのは?
【空手部員】どうします、部長?

腕組みをして座っている部長の獅之田に尋ねる部員。

【獅之田】別に見たけりゃ見せてやればいい。
     これは稽古なんだからな。
【空手部員】そうですよね? 稽古なんですから問題ないですよね?

観衆が道場を囲むように集まり、窓から中を覗き込んでいる。
その中には、龍弥と神楽の姿もある。
龍紀が胴着に着替えて道場に入ってくる。

【空手部員】おい、《転校生》。
      いっておくが、これは稽古だからな?
      稽古中に怪我しようが骨が折れようが、
      それはあくまで稽古中の事故だ。
      先公や親に下らねェ事いうんじゃねェぞ?
【龍紀】ああ、そういや―――、

とぼけながら、部長の方を見る龍紀。

【龍紀】稽古は、俺がギブアップするまで続けてもいいのか?
【獅之田】……。
【龍紀】途中で勝手に終わられても何だからな。
【獅之田】全員と組み手をしても、お前がまだ立っていられたらな。
【龍紀】よっしゃッ。その言葉忘れんなよ?
【空手部員】ははははッ、こいつ全員とやるつもりでいるぜ。
【空手部員】空手部の組み手の厳しさを知らないようだな。

美作を一瞥する部員たち。

【龍紀】さて、それじゃ始めるか。
    最初は誰だ?
【空手部員】俺だ。

佐川という部員が立ち上がる。

【龍紀】よし、来いッ!!
【空手部員】うらァァァッ!!

次々と部員たちと組み手をする龍紀。
受けたり流したりするが、一切自分から攻撃はしない龍紀。
その間、倒されても、何度でも立ち上がってくる龍紀にバテた部員たちは、
他の部員に代わっていく。
肩で息をしながら、龍紀の組み手を見ている部員たち。

【美作】……。

その龍紀の姿を美作が神妙な面持ちで見つめている。
微かに手を膝の上で握り締める美作。
部員全員と組み手をして、ふらふらで立っている龍紀。

【獅之田】ふんッ。
【空手部員たち】ぶッ、部長……。

誰ひとり龍紀を倒せない部員たちを一瞥する獅之田。

【獅之田】俺が相手をしてやろう。

龍紀の前に立ち、帯を締めなおす獅之田。

【獅之田】一本だ。一本だけの技で終わらせてやる。
【龍紀】……。
【獅之田】お前如きに二本目の技はいらぬ。
【龍紀】へッ、そうかい。
    御託はいいから、かかって来な。
    ボスゴリラ。

挑発する龍紀に回し蹴りを放つ獅之田。
龍紀が吹き飛んだ事で道場が振動する。
静寂が道場を包む。

【神楽】龍紀ッ!!

龍紀の名を呼ぶ神楽。

【神楽】もうこれ以上は無理よ。先生を呼んで―――、
【龍弥】まだ終わってないよ。
【神楽】え……?

見ると、龍紀が立ち上がっている。

【龍紀】さすが、部長。なかなかいい蹴りじゃん。
【獅之田】……。

憮然とする獅之田。

【獅之田】浅かったか。

龍紀と組み手を再開する獅之田。

【獅之田】(調子に乗りおって……これで終わりだ)

心の中で呟く獅之田。
その瞳に禍々しい光が宿る。
龍紀に豪快な蹴りを放つ獅之田。
吹き飛び、壁に当たる龍紀。

【空手部員】(決まった……)
【空手部員】(折れたか……)

静まり返る観衆。
立ち上がり、龍紀に背を向ける獅之田。
ふいにシーンとなっていた観衆がざわめく。

【獅之田】――――――ッ!?

振り返り驚愕の眼差しで、立ち上がっている龍紀を見る獅之田。

【獅之田】馬鹿な……確かに……。
【龍紀】さあ、来いよ。
    まだ、終わりじゃないぜ?

咆哮し、龍紀と組み手を再開する獅之田。
陰氣が獅之田の身体から迸る。瞳が赤い光を放ち、
牙のような歯が口腔から見える。
戦う2人を道場の窓から差し込む夕日が照らす。
激しい組み手の中、龍紀は相変わらず自分から攻めようとはしない。

【神楽】龍紀、頑張れッ!!

龍紀を応援する神楽。

【女子生徒】風祭くん、頑張れッ!!
【男子生徒】風祭ッ!!

口々に、龍紀を応援する生徒たち。

【空手部員】部長ッ!!
【空手部員】部長、そこですッ!!

獅之田を応援する部員たち。
道場に熱い声が響く。
拳を強く握り締める美作。

【獅之田】(これは……)

汗だくになり、技繰り出す獅之田。

【獅之田】(この感じは……)

龍紀と組み手をしながら、ふと何かを思い出す獅之田。

多くの歓声の中、試合をしている獅之田。
そこには部員たちの姿と一緒に応援をしている美作の姿もある。
相手に技が決まり、優勝する獅之田。
部員と美作と共に優勝を喜び合う。
次第に、獅之田の表情にあった険が消えていく。



道場の中を、清冽な氣が満ちていく。
その記憶がフラッシュバックした瞬間、龍紀の出した拳が獅之田を捉える。

【獅之田】――――――ッ!!



吹き飛ぶ獅之田。
背中から派手に床に倒れる。

【空手部員たち】部長ォォォッ!!
【神楽】やったァッ!!

部員たちが獅之田の周りに駆け寄る。
観衆の歓声と部員たちの驚愕が道場を包む。

【獅之田】(俺は……今まで一体何を……何をやっていたんだ……)

遠くなる意識の中で思う獅之田。
その姿を温かい目で見つめながら、組み手終了の礼をする龍紀。
正座したまま真剣な顔で龍紀を見ている美作。

【龍弥】兄さん……。

道場を出て行く龍紀。
外で龍紀を祝福する観衆の中、入り口に立ち微笑む龍弥の肩に手を掛け、
力強く頷く龍紀。

●2時間前―――空手部の部室



着替えている龍紀。

【龍弥】兄さんって、本当に素直じゃないよね。

着替えている龍紀に声をかける龍弥。

【龍紀】何がだよ?
【龍弥】わざと美作くんや桧神さんにあんな酷い事いってさ。
【龍紀】……。
【龍弥】そんな性格じゃ損するよ?
【龍紀】うるへー。
【龍弥】美作くんのために戦うの?
【龍紀】……あいつを見ていると苛々すんだよ。
    昔、何かあるとすぐに逃げ出していた自分を見ているようでな。
    強さってもんが、どんなもんかもわからずに迷っていた自分のようで。
【龍弥】……。
【龍紀】自分自身から逃げているヤツが強くなんてなれる訳ないさ。
    強さってのは、身体の大きさや力の強さで決まるもんじゃない。
    そうだろ、龍弥。
【龍弥】そうだね。
    おじいちゃんもよくいっていた。
    真の強さっていうのが、どういうものなのか。
【龍紀】ただ、あいつに手を差し伸べてやるのは簡単さ。
    だけど、それじゃ、あいつ自身が強さの意味ってヤツを
    知る事にはならない。
    真の強さってのは……自分に負けない心なんだからな。
【龍弥】ふふふッ。
【龍紀】何だよ? 何笑ってんだよ。
【龍弥】兄さんも十分お節介だよね。桧神さんの事をお節介とかいうクセにさ。
【龍紀】アホ、あんな凶暴な女と一緒にすんじゃねェよ。
    まだ頬がヒリヒリするぜ。

龍弥を小突く龍紀。

【空手部員】おい、着替えにいつまでかかってんだ?

部室のドアを開けて中を見る部員。

【龍紀】じゃ、ちょっくら行ってくっか。
【龍弥】兄さん……気をつけて。
【龍紀】あァ、お前は外で見てろ。
    ジジイの代わりに、俺があいつら全員の根性を叩きなおしてやるぜ。

●回想終わり―――道場入り口



ゆっくりと振り返る龍紀。
その視線の先には、こちらを見ている美作の姿がある。
しかし、その姿は、騒ぎ立てる観衆に覆い隠される。



校舎の窓から一連の光景を見下ろしている那智 雫馬(なち しずま)と
那智 静瑠(なち しずる)。

【静瑠】もう少しで変生(かわ)るとこだったのに……残念……。

憮然とする静瑠。

【静瑠】でも……面白いわ、あの《転校生》。



静瑠が真っ赤な唇を吊り上げ、ニィと笑う。

『東京魔人學園双龍変―――夕曳』終
  

Posted by 今井秋芳 at 23:53Comments(4)小説

2009年01月26日

『グイン・サーガ』アニメ化

タニス・リー、フィリス・アイゼンシュタイン、ジェイン・ヨーレンなど、外人(特に女流)作家を愛読し、日本人の作家の小説はほとんど読まない俺だが、何人かは愛読する好きな日本人作家がいる。
そのひとりが大河ファンタジー『グイン・サーガ』の著者・栗本薫さんである。
SFマガジンで『グイン・サーガ』を知り、読んでから、その面白さの虜になった。
壮大なヒロイック・ファンタジーは、『コナン』に代表される海外ヒロイック・ファンタジーの香りを感じさせ、加藤直之さんの表紙と挿絵も重厚で異国情緒に溢れていた。
イラストは、加藤さんから天野喜孝さん、末弥純さんとバトンタッチしていく訳だが、個人的にはグインといえば加藤さんのイラスト以外考えられない。
そんなヒロイック・ファンタジー『グイン・サーガ』がアニメ化されるらしい。
日時は、NHKBS2衛星アニメ劇場で、4月5日より毎週日曜23時29分から。
監督は、若林厚史さん。キャラクターデザインは村田峻治さん(『パトレイバー』のOPなどを手掛けたベテラン)。アニメーション制作はサテライト(『アクエリオン』『マクロスF』など)となっている。

メインキャラのデザインは↓




目が大きく、細いボディラインのキャラデになっていたらどうしようかと思っていたが、ちょっと安心。
アムネリスとかパロの真珠とか結構イメージ通りじゃないだろうか。
登場人物の顔ぶれを見ていると、アニメは、ノスフェラス編なのかなと思える。双子を届けるまでとか。

ちなみに、俺が『グイン・サーガ』の中で一番好きなキャラは、イシュトヴァーンだったりする。
デザインは↓



道を踏み外して、堕落する前の爽やかな感じ(笑)
この頃のイシュトが一番良かったなァ。『幽霊船』や『ヴァラキアの少年』の頃のイシュトも良い。
  


Posted by 今井秋芳 at 07:00Comments(4)小説

2008年11月28日

江戸川乱歩

打ち合わせの合間に本屋に立ち寄ったら、ポプラ社でかつて出ていた江戸川乱歩の作品を、文庫版で表紙から挿絵からそのままに再現した本が出ていた。
江戸川乱歩は、小学生の頃、図書室にあったポプラ社の本を読んだのが最初なので、非常に懐かしい。
↓がポプラ社でかつて発刊されていた『少年探偵 江戸川乱歩全集』の表紙。ハードカバーで、判型はA5変型判。




イラストは柳瀬茂。江戸川乱歩作品だけでなく、ホームズやルパンの挿絵も描いていた。レトロなタッチながら、そのシーンの情景がドラマチックに伝わってくるので、とても好きな絵柄だ。
同じような系統では、武部本一郎の挿絵も雰囲気があって引き込まれる。




エドガー・ライス・バローズの『火星シリーズ』などの挿絵を描いているだけでなく、柳瀬茂同様、ポプラ社関連の本の表紙も手掛けている事から、ポプラ社の編集は絵に対して見る目がとてもあったと思う。

話を『少年探偵 江戸川乱歩全集』の文庫版に戻すと、正に子供の頃に読んだあの本がコンパクトになった感じ。




A5変型判だった元の本を文庫の判型で再現している。この調子で、是非、全26巻を発刊してもらいたい。
  


Posted by 今井秋芳 at 02:58Comments(16)小説

2008年11月25日

イシュタルの船


エイブラハム・メリットによるエピック・ファンタジー。
数年前に読んだ作品だか、再読。
いわゆる異世界物ではあるが、緻密な情景描写としっかりとした研究に裏付けられた神話世界の再現が素晴らしい。
イシュタルは、イシターと呼ぶ作品もあり、ゲームでは『ドルアーガの塔』などに登場している。
個人的には、本書の訳者・荒俣宏氏のように、イシュタルと呼ぶのが語感的には好ましい。
そういった意味で、イシュトという名前も好きだったりする。
ヤーンの長い髭にかけて!

  

Posted by 今井秋芳 at 15:21Comments(2)小説

2008年10月27日

読書の秋

仕事柄24時間区切りなく不規則な生活なので、よく風邪を引いたり、体調崩す事が多かったりする。
忙しかったり、徹夜などで詰めている間は何ともないのだが、詰めと詰めの間とかプロジェクトとプロジェクトの間などに急に体調が悪くなる。
緊張の糸が切れたといえばいいのか、昔からそういった時に風邪を引いて、逆にそのまま仕事をしている間に治ったりしている。
実は、先日の東京ゲームショウのイベントも連日ハードスケジュールだったので、終わったとたん発熱し、風邪を引いた。

先日、そんな私を心配して、ファンが本を贈ってくれた。ありがとうございます。



健康維持というのは、食事などによる免疫や耐性作りと運動による病にかかりにくい身体を作るのが一番だといわれている。
それは知っていたのだが、ではどのようにしていけばいいのかは知らなかったので、これを機会に読んでみる事に。

送られてきた本の中には『死体を科学する』といった興味深い本も含まれていた。
こちらは、『アーカム・レポート』の参考文献として読ませてもらおうと思う。

ファンの好意に多大なる感謝と愛を……。
  

Posted by 今井秋芳 at 01:08Comments(2)小説